電子契約の法的効力とは?電子署名法や電子帳簿保存法で求められる要件
(更新日:2024年3月7日)
目次[非表示]
- 1.電子契約の定義
- 2.電子契約の法的効力
- 3.電子署名と電子サインの法的効力の違い
- 3.1.①電子署名の法的効力
- 3.2.②電子サインの法的効力
- 4.電子署名法で求められる要件
- 5.電子帳簿保存法で求められる要件
- 5.1.①電子帳簿での保存要件
- 5.2.②電子取引での保存要件
- 6.e-文書法で求められる要件
- 7.電子契約に関して知っておくべき法律
- 8.電子契約を導入する際の注意点
- 8.1.①電子化に対応していない契約
- 8.2.②取引先との合意が必要
- 8.3.③電子契約専用の業務フローの策定
- 9.まとめ
ペーパーレス化や脱ハンコの促進に伴い、電子契約が企業で取り入れられています。
電子契約は書面契約とは異なり、紙文書でのやりとりが必要ないため、業務効率や利便性の向上につながります。
しかし、電子契約は直接署名や押印ができないため、法的効力や有効性が一つの課題です。
担当者のなかには、「電子契約の導入を検討している」「電子契約の法的効力について知りたい」と考えている方もいるのではないでしょうか。
この記事では、電子契約の定義と法的効力、導入する際の注意点について詳しく解説します。
電子契約の定義
電子契約とは、電子データで作成された契約書に電子署名を使用して締結される契約のことをいいます。
書面契約とは異なり、電子データとして存在するため、契約書の作成から管理まですべてオンライン上で行うことが可能です。
物理的に保管する必要がないため、紛失や自然災害に伴う破損・汚損などのリスクが軽減されます。
また、印刷に必要な紙やインクなどのコストがかからないため、コスト削減に加え、社内のペーパーレス化の促進に役立ちます。
契約に必要な手続きはすべてオンライン上で行われるため、契約業務にかかる印刷・製本・郵送などの工数を削減することも可能です。
電子契約の法的効力
書面契約とは異なり、電子契約は直接署名や押印ができないため、法的効力が懸念されます。
しかし、電子契約の法的効力については、『電子署名及び認証業務に関する法律』通称電子署名法第3条によって認められています。
電子署名法第3条は以下の通りです。
電磁的記録であって情報を表すために作成されたもの(公務員が職務上作成したものを除く。)は、当該電磁的記録に記録された情報について本人による電子署名(これを行うために必要な符号および物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるものに限る。)が行われているときは、真正に成立したものと推定する。
このように、電子的に作成された文書であっても、当事者による電子署名が行われていれば、法的効力と有効性が担保されるという仕組みです。
電子署名は、第三者機関による厳格な本人確認が行われたうえで発行される電子証明書を用いることが一般的なため、本人性と非改ざん性が保証されます。
また、電子証明書は高度な暗号化技術によって保護されているため、解析や悪用のリスクが最小限に抑えられています。
電子署名と電子サインの法的効力の違い
ここでは、電子署名と電子サインの法的効力の違いについて解説します。
①電子署名の法的効力
電子署名とは電子サインの一種であり、電子署名法が定める要件を満たした署名方法です。
電子署名には電子署名法の要件を満たすために、電子証明書を使用することが一般的です。また、同時にタイムスタンプを付与することで長期的に真正性を確保できます。
電子証明書は第三者機関によって厳格な本人確認が行われたうえで発行されるものであり、電子文書の本人性を担保します。
一方で、タイムスタンプは電子文書が作成や編集された正確な時刻を記録するものであり、電子文書が改ざんされていないことを証明します。
電子署名は、一般的な電子サインに比べて「本人であること」「改ざんされていないこと」を証明するための仕組みが施されているため、法的効力があります。
②電子サインの法的効力
電子サインとは、紙の文書に署名する代わりに電子的な方法を用いて押印・署名する方法全般を指す言葉であり、電子署名より広義な意味を持ちます。
例えば、電子文書に対してタッチペンで署名、メールアドレスとパスワードによる認証を行って署名、生体認証を行って署名などは、すべてが電子サインという扱いになります。
▼電子サインに含まれる概念
- 電子署名
- 電子印鑑
- デジタル署名 など
このように、電子サインは複数の概念を指す言葉であるため、必ずしも法的効力がないわけではありません。
電子署名のように、本人性や非改ざん性などが証明できる電子サインであれば、法的効力を持たせることが可能です。
基本的に電子署名以外の電子サインは、一定の有効性は認められても裁判で証拠として使用できるとは限りません。
電子署名法で求められる要件
電子署名法とは電子署名の法的有効性を定義した法律であり、具体的には電磁的記録の真正な成立の推定と特定認証業務に関する認定の制度を定めています。
2001年に施行された法律であり、正式名称は『電子署名及び認証業務に関する法律』です。
電子署名に関する定義や要件については、電子署名法第2条1項にてまとめられています。
第二条
この法律において「電子署名」とは、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)に記録することができる情報について行われる措置であって、次の要件のいずれにも該当するものをいう。
一 当該情報が当該措置を行った者の作成に係るものであることを示すためのものであること。
二 当該情報について改変が行われていないかどうかを確認することができるものであること。
引用元:電子署名法第2条1項
上記をまとめると、電子署名としての要件を満たすためには「本人性」と「非改ざん性」を担保する必要があることが分かります。
しかし、これらの要件は極めて抽象的であるため、電子署名法第3条や電子署名における最新の解釈を確認しておくことが重要です。
電子帳簿保存法で求められる要件
電子帳簿保存法とは、帳簿や領収書などの書類の保存処理にかかる負担を軽減し、税務関係帳簿書類のデータ保存を可能とする法律です。
取引に関する書類に記載される取引情報を含んだ電子データをやり取りした場合の当該データの保存義務や方法についても、電子帳簿保存法で定められています。
電子帳簿保存法は「電子帳簿等保存」「スキャナ保存」「電子取引」の3つに区分されており、それぞれ保存要件が異なるため注意が必要です。
ここでは、「電子帳簿等保存」と「電子取引」に焦点を当てて要件を解説します。
①電子帳簿での保存要件
電子帳簿等保存の保存要件は、「優良」と「その他」に分けられます。
「優良」とは、さまざまな要件を満たすことで青色申告特別控除が適用できるものを指しています。
優良な電子帳簿として優遇措置を受けるためには、一般的な保存要件に加えて訂正・削除の履歴が確認できる状態、関連する他の帳簿との関係性が確認できる状態、検索できる状態などを確保したうえで届出書の提出が必要です。
一方で、「その他」は最低限の要件を満たしている電子帳簿のことを指しており、以下のような内容になっています。
▼「その他」の保存要件
- システム関係書類(システム概要書・仕様書、操作説明書、事務処理マニュアルなど)を備え付けていること
- 保存・保管場所にパソコンやディスプレイ、プリンターなどを備え付け、記録事項を整然とした状態で速やかに出力できること
- 税務職員による質問検査権に基づく記録のダウンロードに応じられるようにしておくこと
上記の要件は書面で保存する場合でも同様であり、「税務職員による質問検査権に基づく記録のダウンロードに応じられるようにしておくこと」については「優良」の検索要件を満たしている場合は不要です。
②電子取引での保存要件
電子取引の保存要件は、「真実性の要件」と「可視性の要件」に分けられます。それぞれの具体的な要件は以下のとおりです。
▼真実性の要件
- タイムスタンプが付与された後に、取引情報の授受を行う
- 取引情報の授受後に速やかにタイムスタンプを付与し、保存の実行者または監視者に関する情報を確認できるようにする
- 記録事項の訂正や削除を行った場合にその事実を確認できるシステムを利用する、もしくは訂正や削除ができないシステムを利用して保存する
- 正当な理由がない訂正や削除を防止するための事務処理規定を定め、それに沿った運用を行う
真実性の要件については、上記のいずれかを満たす必要があります。
▼可視性の要件
- 保存場所にパソコンやディスプレイ、プリンターなどの出力機器とシステムの操作説明書を一緒に備え付け、保存しているデータを速やかに見られる状態にしておくこと
- システムの概要書・仕様書を備え付けておくこと
- 取引日付・取引金額・取引先で検索できること
- 日付または取引金額の範囲指定で検索できること
- 2つ以上の検索項目を組み合わせて検索できること
速やかに必要なデータにアクセスできるようにしておくことが、可視性の要件を満たすうえで重要なポイントになります。
なお、売上高が1,000万円以下で、税務調査の際に保存データをダウンロードするよう求められた場合に速やかに応じることができる状態であれば、検索機能の確保は不要です。
e-文書法で求められる要件
e-文書法とは、商法や税法、会社法や保険業法などで書面での保管が義務付けられている書類の電子保存を認める法律です。
e-文書法は通称であり、正式には「民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律」と「民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」の2つの法律を総称したものです。
▼e-文書法で求められる要件
- 見読性:保存したデータが読みやすい、見やすい状態であること
- 完全性:データ作成後に改善されていないこと
- 機密性:情報漏洩や盗難、不正アクセスなどが防止されていること
- 検索性:必要に応じて保存データを探せること
上記はe-文書法の基本的な要件であり、文書を電子化する際にすべてを満たさないといけないわけではありません。
すべての対象文書で必須とされるのは「見読性」のみであり、文書の種類によって満たすべき要件が異なるため、注意が必要です。
電子契約に関して知っておくべき法律
電子契約にはさまざまな法律が関係しており、適切に導入するためにはそれぞれの法律を知っておくことが大切です。
▼電子契約に関係する主な法律
法律名 |
概要 |
---|---|
民法 |
契約を成立させるためのルールを定めた法律 |
民事訴訟法 |
成立した契約を証拠として扱うための条件を定めた法律 |
電子署名法 |
電子署名の法的有効性を定めた法律 |
電子帳簿保存法 |
電子帳簿を有効な形で保存するためのルール・要件を定めた法律 |
電子契約法 |
消費者が電子商取引の申込みで操作ミスをした場合の救済や電子商取引での契約成立のタイミングを定めた法律 |
デジタル改革関連法 |
押印・書面の交付などを求める手続きの見直しを行った法律 |
IT書面一括法 |
紙での交付が義務付けられていた書類の電子的な交付を認める法律 |
e-文書法 |
保存が義務化されている文書の電子的な保存を認める法律 |
印紙税法 |
電子契約において印紙税が非課税であることを認めた法律 |
電子契約の普及に伴い、関連する法律も定期的に改正や見直しが行われているため、電子契約を導入する際は最新の情報を確認することをおすすめします。
電子契約を導入する際の注意点
電子契約は、自社だけで完結するものではありません。社内はもちろん、取引先ともコミュニケーションを取り、慎重に検討することが重要です。
ここでは、電子契約を導入する際の注意点を3つ紹介します。
①電子化に対応していない契約
契約に関連する書類のなかには、書面化や書面での交付が義務づけられているものがあります。
誤って電子化した場合は法的な罰則があるため、導入の際は注意が必要です。書面化義務が定められている契約は以下の通りです。
- 事業用定期借地契約
- 企業担保権の設定または変更に関する契約
- 任意後見契約
しかし、法改正によって書面化義務が緩和された事例もあるため、今後変更される可能性があります。
電子契約を導入する際は、最新の情報を確認したうえで進めることが大切です。
>>電子署名とは?導入のメリット・デメリットと必ず知るべき注意点
②取引先との合意が必要
契約は取引先があってはじめて成立するものです。
自社だけで電子契約を取り入れても、取引先が対応していなければ電子契約の締結はできません。
電子契約を適切に導入するためには、検討する段階で取引先とコミュニケーションをとり、双方で合意することが重要です。
場合によっては取引先が拒否反応を示すことも予想されますが、電子契約のメリットや法的効力を丁寧に説明することで同意を得られる可能性があります。
③電子契約専用の業務フローの策定
電子契約は書面契約とは異なり、業務の流れが異なるため、専用の業務フローを新たに策定する必要があります。
電子契約の導入は現場の混乱を招くことが予想されるため、事前に研修や勉強会を設け、周知することが大切です。
また、導入当初は社内文書のみ電子化を行い、使用感を確かめながら電子契約に移行する方法もあります。
物理的な紙ではなく、電子データで契約書を管理するため、情報の取扱いについても徹底することが重要です。
>>電子化と紙での保管、どちらがお得?~メリット・デメリットを比較する~
>>電子契約に法的効力はある?電子署名の有効性についても解説します
まとめ
この記事では、電子契約について以下の内容で解説しました。
- 電子契約の定義
- 電子契約の法的効力
- 電子署名と電子サインの法的効力の違い
- 電子署名法で求められる要件
- 電子帳簿保存法で求められる要件
- e-文書法で求められる要件
- 電子契約に関して知っておくべき法律
- 電子契約を導入する際の注意点
オンライン上で電子データとして作成され、場所や時間を問わず締結できる電子契約は、企業の業務効率向上に役立ちます。
電子契約の法的効力は法律で認められており、書面契約と同等の信用性と正当性が担保されています。
しかし、電子契約は自社だけではなく取引先にも影響するため、導入する際は事前確認と合意が必要です。
また、業務フローについても書面契約とは異なるため、運用方法にも注意しながら進めることが大切です。
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