【2024年最新】電子契約の法改正まとめ|何が変わったか、注意点を解説
目次[非表示]
- 1.近年改正された電子契約に関する主な法律
- 1.1.電子帳簿保存法
- 1.2.デジタル改革関連法
- 1.3.消費税法(インボイス制度)
- 2.電子契約に関する法改正の詳細
- 3.法改正に伴う電子契約の主な注意点
- 3.1.電子化できない契約が一部存在する
- 3.2.電子取引データ保存の宥恕期間終了に留意する
- 3.3.長期署名の利用を検討する
- 3.4.適宜業務フローの整備を行う
- 3.5.法改正に対応できる電子契約システムを利用する
- 4.まとめ
2021年のデジタル庁設置など、政府もデジタル化に大きく舵を切るなか、ビジネスシーンでも、契約書の電子化への動きが加速しています。
取引先が電子契約を導入し、自社でも待ったなしの対応を迫られているケースも少なくないでしょう。電子契約には、コスト削減のメリットもあり、積極的に活用していきたいところですが、気になるのが法改正です。
この記事では、近年、矢継ぎ早に改正している電子契約に関する法律について、何がどう変わったのか、運用する際の注意点をわかりやすく解説します。
近年改正された電子契約に関する主な法律
電子契約には国税関係、契約の有効性など多くの側面があり、関連する法律も1つではありません。ここでは、近年改正された電子契約に関する主な法律を紹介します。
電子帳簿保存法
電子帳簿保存法とは、紙での保存義務があった国税関係の帳簿書類を、一定の要件を満たせば、電磁的記録(電子データ)での保存を認めたものです。
また、メールで請求書や領収書のやり取りをした、備品をネット通販で購入したといった電子取引データの保存義務についても規定しています。
法律で規定している、電子データ保存の区分は次の3種類です。
①電子帳簿等保存
会計ソフトで作成した帳簿類やパソコンで作成した請求書の控えなどをデータのまま保存
②スキャナ保存
取引先から送られてきた紙の請求書や領収書などをスキャナやスマホで読み取り電子化し保存
③電子取引データ保存
メール添付で受け取った発注書や契約書、通販サイトで精算に使ったクレジットカード利用明細データなどを電子データで保存
出典:国税庁「電子帳簿保存法が改正されました」
出典:国税庁「電子帳簿保存法の内容が改正されました 」
デジタル改革関連法
デジタル改革関連法とは、流通するデータの多様化や大容量化等に対応するため、2021年9月に施行された6つの関連法律をいいます。その中の1つ、「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律(デジタル社会形成整備法)」では、押印や書面手続きの見直しが盛り込まれているため、転出・転入届の押印廃止など行政手続きの簡略化が進むきっかけとなりました。
消費税法(インボイス制度)
「適格請求書等保存方式(インボイス制度)」とは、事業者間でやり取りされる消費税を記載した請求書の制度です。2023年10月1日から開始され、課税事業者が、消費税額を算出する際に仕入税額の控除を受けるためには、適格請求書(インボイス)の保存が必要になりました。インボイスは電子化することができ、電子データ化したものは電子インボイスやデジタルインボイスなどと呼ばれます。
出典:国税庁「適格請求書等保存方式の概要」
電子契約に関する法改正の詳細
ここからは、電子契約に関する法改正について詳しく解説します。前提として、法的に義務化された点を紹介します。
義務化されたこと
電子データの保存要件について、データの種類ごとに詳細に義務化されています。
電子帳簿等保存時の保存要件
2021年の改正で、電子帳簿は「優良な電子帳簿」と「その他の電子帳簿」の2種類になりました。国税関係書類も含めた保存要件は次の表の通りです。
要件 |
概要 |
帳簿 |
書類 |
||
優良 |
その他 |
||||
①訂正・削除、業務処理期間外入力の履歴確認 |
記録事項の訂正・削除、通常の業務処理期間経過後に入力した場合、その事実や内容が確認できる会計ソフト等を使用していること |
〇 |
― |
― |
|
②帳簿間の相互関連性確保 |
電子化した帳簿と関連する他の帳簿の記録事項との間に関連性を確認できること |
〇 |
― |
― |
|
③マニュアル等の備え付け |
会計ソフト等の概要書、仕様書、操作説明書、事務処理マニュアル等を備え付けること |
〇 |
〇 |
〇 |
|
④画面・紙媒体での速やかな出力 |
帳簿の保存場所に、パソコンやディスプレイ、プリンタ及びこれらの操作マニュアルを備え付け、記録事項を画面及び書面に整然とした形式、明瞭な状態で速やかに出力できるようにしておくこと |
〇 |
〇 |
〇 |
|
⑤検索機能の確保 |
a |
取引年⽉日、取引金額、取引先により検索できる |
〇 |
― |
― |
b |
日付又は金額の範囲指定により検索できる |
〇 |
― |
― |
|
c |
2つ以上の任意の記録項目を組み合わせた条件で検索できる |
〇 |
― |
― |
|
⑥ダウンロード対応 |
税務職員からのダウンロードの求めに応じることができるようにしておくこと |
― |
〇 |
〇 |
(注)
・優良な電子帳簿において⑤検索機能の確保について、⑥ダウンロード要件を満たしていれば、b、c要件は不要
・その他帳簿の⑥ダウンロード要件は、①~⑤をすべて満たしていれば不要
・国税関係書類について、取引年月日その他の日付で検索できる機能及びその範囲を指定して条件を設定することができる機能を確保している場合は、⑥ダウンロード要件は不要。
ちなみに、「優良な電子帳簿」につきあらかじめ税務署に届出をしていた場合に、過少申告加算税の5%軽減措置と所得税の青色申告特別控除(65万円)を受けることのできる「優良な電子帳簿に係る過少申告加算税の軽減措置」については、2023年の改正で対象となる国税関係帳簿の範囲が狭くなりました。
■従来
仕訳帳、総勘定元帳のほか、すべての青色関係帳簿が対象 |
■2023年改正(2024年1月1日~)からの対象
仕訳帳・総勘定元帳・売上帳・仕入帳・経費帳・賃金台帳(所得税のみ)・売掛帳・買掛帳・受取手形記入帳・支払手形記入帳・貸付帳・借入帳・未決済項目に係る帳簿・有価証券受払い簿(法人税のみ)・固定資産台帳・繰延資産台帳など |
出典:国税庁「はじめませんか、帳簿・書類のデータ保存」
出典:国税庁「電子帳簿保存法が改正されました」
出典:国税庁「電子帳簿保存法の内容が改正されました 」
次にスキャナ保存をする場合の保存要件です。
■スキャナ保存時の保存要件
①入力期間 |
|
②解像度 |
200dpi相当以上 |
③カラー画像 |
赤色、緑色及び青色の階調がそれぞれ256階調以上(24ビットカラー) |
④タイムスタンプ |
入力期間内に、スキャナデータが変更・改ざんされていないことが確認できるなど一定の条件をもとに総務大臣が認定するタイムスタンプを付与する。 ※①の入力期間内にスキャナ保存したことが確認できる場合は、タイムスタンプは不要。 |
⑤ヴァージョン管理 |
スキャナデータについて訂正・削除の事実やその内容を確認することができる、又は訂正・削除を行うことができないシステムを使用 |
⑥帳簿との相互関連性の確保 |
スキャナデータとそのデータに関連する帳簿の記録事項との間において、相互に関連性を確認できること |
➆見読可能装置等の備え付け |
14インチ(映像面の最大径が35cm)以上のカラーディスプレイとカラープリンタ、さらに操作説明書を備え付けること |
⑧速やかに出力すること |
・整然とした形式・書類と同程度に明瞭 ・拡大又は縮小出力可能・4ポイントの大きさの文字を認識できる状態必須 |
⑨システム概要書等の備付け |
スキャナ保存するシステム等の概要書、仕様書、操作説明書、スキャナ保存の手順や担当部署などを明らかにした書類を備え付けること |
⑩検索機能の確保 |
a 取引年⽉日その他の日付、取引金額及び取引先での検索 |
b 日付又は金額に係る記録項目について範囲を指定しての検索 | |
c 2つ以上の任意の記録項目を組み合わせての検索 | |
※ 税務職員のダウンロードの求めに応じることができるようにしている場合には、b、c要件は不要 |
出典:国税庁「はじめませんか、書類のスキャナ保存」
電子取引データについては、2024年1月1日から基本的に紙のみでの保存が禁止になりました。
受け取った場合だけでなく、送った場合も同様に保存義務があります。
ただし、電子保存が必要なのはデータでやり取りした場合だけで、紙でやり取りしたものは紙保存で問題ありません。
保存要件は主に3つです。
電子取引のデータでの保存
改ざん防止措置 |
a タイムスタンプを付与する |
b 訂正・削除の履歴が残るシステム等でデータの授受と保存をする | |
c 改ざん防止のための事務処理規程を定めて守る | |
出力環境の確保 |
パソコンやプリンタ、操作マニュアル等を備え付け、画面・書面とも整然とした形式、明瞭な状態ですぐ出力できる状態にする |
検索機能の確保 |
取引等の「日付・金額・取引先」につき |
・日付または金額について範囲指定検索ができる |
出典:国税庁「電子取引データの保存方法をご確認ください」
出典:国税庁「令和6年1月からの電子取引データの保存方法」
一方、インボイスについては、どのように義務化されているでしょうか。
インボイスの発行および保存
電子データで発行又は受領した適格請求書(インボイス)は、紙での保存のほかに電子データ保存も認められていますが、電子データで保存する際は、電子帳簿保存法の保存ルールに則って保存する必要があります。
出典:国税庁「適格請求書に係る電磁的記録を提供した場合の保存方法」
緩和されたこと
次に、法改正によって緩和されたことを紹介します。
デジタル改革関連法の1つ「デジタル社会形成整備法」により、48の法律の押印・書面手続きが見直され、総務省、金融庁、厚生労働省、法務省など多くの省庁で、押印・書面化義務が緩和されています。
具体例を挙げると、宅地建物取引業法では、次の書類の押印・書面化義務が廃止され、不動産取引の利便性が向上しました。
押印義務の廃止
「重要事項説明書」「契約締結時の書面」・・・記名のみに変更されました。
書面化義務の廃止
「重要事項説明書」「契約締結時の書面」・・・相手方の承諾を得れば電子データでの交付が可能になりました。
事前承認制度の廃止
国税関係帳簿・書類、スキャナデータの電子データ保存する際には、事前に税務署長の承認が必要でしたが、2022年1月以降は不要になりました。
スキャナ保存の要件の一部緩和
国税関係書類をスキャナで読み取った際の「解像度・階調・大きさ」に関する情報の保存が不要になりました。なお、スキャナで読み取るときの解像度と階調の要件は変わりません。
また、スキャナする書類の登録者や登録者を監督する者の情報の確認要件が廃止されました。
そのほか、スキャナ保存要件⑥の相互関連性を確保すべき書類については、契約書、納品書、請求書、領収書などの重要書類に限られるようになり、見積書、注文書、検収書などの一般書類については、相互関連性の確保は不要です。
タイムスタンプ・検索機能の義務の一部免除
スキャナ保存について、タイムスタンプの付与期間が、書類の入力期間と同様に、最長約2か月とおおむね7営業日以内となりました。さらに、入力期間内にスキャナ保存したことが確認できる場合は、タイムスタンプは不要になりました。
また、保存要件⑩検索機能については、税務職員のダウンロードの求めに応じる場合は、b、c要件が不要です。
電子帳簿保存については、保存要件⑤検索機能の要件aが、「取引年月日、勘定科目、取引金額その他、帳簿の種類に応じた主要な記録項目」から、「取引年月日、取引金額、取引先」に限定され、義務が一部免除されました。
そのほか、電子取引データ保存について、検索機能すべてが不要とされる措置の対象者の範囲が、2課税年度前の売上高「1,000万円以下」の事業者から「5,000万円以下」の事業者に拡大され、さらに、電子データをプリントアウトした書面を日付及び取引先ごとに整理された状態で提示・提出できるようにしている事業者も新たに追加されています。
出典:国税庁「電子帳簿保存法が改正されました 」
出典:国税庁「電子帳簿保存法の内容が改正されました 」
法改正に伴う電子契約の主な注意点
ここからは、法改正を踏まえた上で、電子契約を活用する際に主に注意すべき点を解説していきます。
電子契約手続きを進める際には、ぜひ次のポイントをチェックしましょう。
電子化できない契約が一部存在する
次の契約では、電子契約が認められていません。
- 事業用定期借地契約
- 企業担保権の設定又は変更を目的とする契約
- 任意後見契約書
理由は、「公正証書」による契約が義務づけられているからです。
ちなみに、公正証書とは、個人又は会社その他の法人からの嘱託により、公証人がその権限に基づいて作成する文書のことです。
今後、改正の可能性もありますが、注意が必要です。
出典:法務省「公証制度について」
電子取引データ保存の宥恕期間終了に留意する
2021年改正により、2022年1月1日から電子取引データの電子データ保存が義務化されました。しかし、準備が間に合わなかったり、中小企業において制度の認知が進んでいなかったりすることを考慮して、2023年12月31日までの2年間は、やむを得ない事情があれば、紙での保存を認めるという「電子取引データの宥恕(ゆうじょ)措置」がとられていました。2023年の改正では、宥恕期間は延長されず、2024年1月1日からは、保存ルールに則った電子データ保存が義務となりました。
ただし、新たに「猶予措置」が整備されています。次の2つの要件を満たす場合は、猶予措置の対象となり、電子取引データを単に保存するだけでよくなりました。
・電子取引データ保存のルールに従って電子取引データを保存できないことについて、「相当の理由」があるとき
例:人手不足、資金が足りない、システム整備が間に合わないなど
・税務調査の際に、電子取引データのダウンロード、電子取引データをプリントアウトした書面の提示・提出の求めに応じることができる
出典:財務省「電子取引データの出力書面等による保存措置の廃止(令和3年度税制改正)に関する宥恕措置について」
出典:国税庁「令和6年1月からの電子取引データの保存方法」
出典:国税庁「電子帳簿保存法の内容が改正されました 」
長期署名の利用を検討する
事務負担やタイムラグの軽減、郵送料や印紙税のコストカットなど、メリットの多い電子契約ですが、思わぬ落とし穴もあります。電子署名の有効期限です。
署名に有効期限のある理由は、年月の経過によって、暗号解読法が新たに考案され、当時の暗号が破られてしまうなど、契約の危険性が高まるからです。そのため、電子署名の有効期限は1年から3年程度のことが多く、契約期間満了の前に電子署名の有効期限が切れてしまうこともあり得ます。
また、電子署名とともに付与されるタイムスタンプの有効期限も10年ほどです。電子署名や電子署名とともに付与されるタイムスタンプの有効期限が切れてしまうと、本人証明や契約日付の証明が難しくなり、契約が無効化してしまうこともあります。さらに、電子署名やタイムスタンプが改ざんされるなど、会社に大きな損害を与えてしまうことにもなりかねません。
リスクに備えるためにも「長期署名」の利用は有効な方法の1つです。
長期署名とは、電子署名とタイムスタンプ付きの電子文書に、「保管タイムスタンプ」という新たなタイムスタンプを付与することで、署名の有効性を延ばす技術です。ぜひ検討してみてはいかがでしょうか。
適宜業務フローの整備を行う
これまで見てきたように、電子契約を採用し、電子帳簿や各種書類、電子取引データを電子保存するには、法律で定められた多くのルールに従う必要があります。そのため、初めて導入するには、従業員への丁寧な説明とともに、契約締結から保存まで、それぞれの段階での細かな業務フローの整備が欠かせません。また、業務フローは実際に運用する中で適宜見直しを行うなど、ブラッシュアップもしていきましょう。
法改正に対応できる電子契約システムを利用する
電子契約の分野は技術革新の最中であり、刻一刻と状況は変化しています。今後も根拠となる法律の改正も頻繁にあると思われます。電子契約のメリットを最大限活用し、会社の利益を上げていくには、度重なる法改正にもしっかり対応できる電子契約システムの利用が必須です。
まとめ
現在、加速度的に導入が進んでいる電子契約には複数の法律が関係しており、各種電子データの保存要件など、それぞれに詳細なルールがあります。また、近年、法改正も頻繁に行われています。制度の難解さから二の足を踏んでしまうケースもある電子契約ですが、適切な電子契約サービスを選択することで、導入のハードルは一気に下がります。
NXワンビシアーカイブズの電子契約・契約管理サービス「WAN-Sign」は、4,000社以上の情報資産を管理するなど豊富な実績を持ち、電子署名法、電子帳簿保存法など関係法律にも準拠しています。さらに、金融機関や官公庁などが求めるレベルに対応した業界最高水準のセキュリティ体制を構築しています。専門の担当が、サービス導入から導入後のサポートまで無料で行います。
電子契約について何から手をつけたらよいかわからない、安全性の確保が心配だ、などさまざまな悩み、疑問をお持ちの方は、ぜひ一度チェックしてみてください。