取締役会議事録の電子化がより簡単に。電子署名を可能とした法務省の新解釈を解説します


(更新日:2023年8月7日)

目次[非表示]

  1. 1.取締役会議事録とは?
    1. 1.1.今までの議事録作成はどのように行われていたのか
  2. 2.新解釈により、変わったことは?
  3. 3.何故変わったのか
  4. 4.解決されていない動き
  5. 5.まとめ



法務省がこの度、「リモート型」や「クラウド型」電子契約での取締役会議事録作成を容認しました。今回はこの動きについて解説してまいります。



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取締役会議事録とは?

株式会社において、業務執行の意思決定機関となる取締役会ですが、この取締役会の議事録は会社法369条3項、会社法施行規則101条2項により、作成しなければならないとされています。

その議事録については会社法施行規則101条3項、4項に定められた事項を記載し、会社法371条で定められた保管を行わなければなりません。作成時期に制限はありませんが、代表取締役が選定されて登記申請する場合や、株主または債権者からの閲覧請求などに対応するためにも大体の企業は開催後1週間程度で作成していることが多いそうです。


会社法第369条

取締役会の決議は、議決に加わることができる取締役の過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)が出席し、その過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)をもって行う。

(略)

3 取締役会の議事については、法務省令で定めるところにより、議事録を作成し、議事録が書面をもって作成されているときは、出席した取締役及び監査役は、これに署名し、又は記名押印しなければならない。

(略)

出典:「平成十七年法律第八十六号 会社法



今までの議事録作成はどのように行われていたのか

取締役会議事録ですが、作成は書面だけでなく電磁的記録での作成も認められています。 電磁的記録とは「磁気ディスクその他これに準ずる方法により一定の情報を確実に記録しておくことができる物をもって調製するファイルに情報を記録したもの(会社法施行規則224条)」とされていますが、ここでは分かりやすくPDFとします。

PDFで取締役会議事録を作成した場合、上記の会社法369条3項で義務付けられている署名・押印には制約がありました。同法4項、会社法施行規則第 225 条においては電子証明書を用いた電子署名のみ、つまり予め認証局による本人確認を完了させ発行した電子証明書を取得して本人性の担保を行っている電子署名。WAN-Signでいう実印版の電子署名のみが認められており、メール認証である認印版は認められていなかったのです。


会社法第369条

4 前項の議事録が電磁的記録をもって作成されている場合における当該電磁的記録に記録された事項については、法務省令で定める署名又は記名押印に代わる措置をとらなければならない。

出典:「平成十七年法律第八十六号 会社法


会社法施行規則第225条(電子署名)

次に掲げる規定に規定する法務省令で定める署名又は記名押印に代わる措置は、電子署名とする。

(略)

六 法第三百六十九条第四項(法第四百九十条第五項において準用する場合を含む。)

(略)

2 前項に規定する「電子署名」とは、電磁的記録に記録することができる情報について行われる措置であって、次の要件のいずれにも該当するものをいう。
 一 当該情報が当該措置を行った者の作成に係るものであることを示すためのものであること。
 二 当該情報について改変が行われていないかどうかを確認することができるものであること。

出典:「平成十八年法務省令第十二号 会社法施行規則


社外取締役の議事録への押印に郵送していたため電子化ニーズはあったとは思いますが、気軽に電子化できるものではなかったのです。


>>電子契約に印鑑が不要な理由と電子印鑑のリスクを紹介


全社導入前に押さえておきたい7つのポイントバナー


新解釈により、変わったことは?

今回、法務省から経団連など主な経済団体に対して「リモート型」や「クラウド型」の電子署名でも、取締役会議事録の電子作成を認めました。つまりWAN-Signでいう認印版での電子署名も認められたということです。

【法務省の見解】

会社法上、取締役会に出席した取締役及び監査役は、当該取締役会の議事録に署名又は記名押印をしなければならないこととされています(会社法第369条第3項)。また、当該議事録が電磁的記録をもって作成されている場合には、署名又は記名押印に代わる措置として、電子署名をすることとされています(同条第4項、会社法施行規則第225条第1項第6号、第2項)。
当該措置は、取締役会に出席した取締役又は監査役が、取締役会の議事録の内容を確認し、その内容が正確であり、異議がないと判断したことを示すものであれば足りると考えられます。したがって、いわゆるリモート署名(注)やサービス提供事業者が利用者の指示を受けて電子署名を行うサービスであっても、取締役会に出席した取締役又は監査役がそのように判断したことを示すものとして、当該取締役会の議事録について、その意思に基づいて当該措置がとられていれば、署名又は記名押印に代わる措置としての電子署名として有効なものであると考えられます。

一般社団法人 新経済連盟ウェブサイト「取締役会議事録に施す電子署名についての法務省見解」より


通常の取締役会議事録を書面で作成した場合、「署名」のみ,又は「記名押印」と選択肢があり、また印鑑についても実印を求められているものではありませんでした。今回によってPDF作成時のときだけ電子署名方法が限定的だったのが、選択肢が出来たことになります。より電子署名とリアル世界の印鑑との規制差が減ってきたことが伺えます。

ではここでいうリモート型とクラウド型とはいったい何なのでしょうか?リモート型とは例えば電子契約を提供している事業者のサーバーに自身の署名鍵を設置・保管し,電子署名を行う際は自身がサーバーにリモートでログインし、当該事業者のサーバー上で保管していた署名鍵を使って電子署名を行うものです。

クラウド型とは自身の署名鍵をクラウド上に保管し、電子署名を行う際はクラウド上で書類を確認し、保管していた署名鍵を使って電子署名を行うものです。



>>電子契約における電子署名とは?電子サインとの違いを紹介


何故変わったのか

何故今回、クラウド型、リモート型を認めたのでしょうか?それは現在日本で普及している電子契約の多くがクラウド型である中で、押印手続を簡素化したい経済界からの強い要望があったことが考えられます。新型コロナウィルスの感染防止のためにリモートワークを推し進めたいのにも関わらず、押印のために出社せざるを得ないケースが相次ぎ、このような要望が強まったのでしょう。

要望を受けた法務省民事局も、取締役会議事録の確認であれば取締役会に出席した取締役・監査役が議事録の内容を確認し、異議がないことを示すものであれば足りることと判断し、今回認められたのではないかと考えられます。


>>電子署名とは?導入のメリット・デメリットと必ず知るべき注意点



解決されていない動き

この取締役会議事録作成の簡素化ですが、まだすべてクラウド型が許容された!と喜べる状態ではありません。

取締役会の内容によっては、つまり代表取締役選任などの登記申請を必要とする内容の決議が行われた場合、この議事録は登記手続の際に添付する義務があります。ここで提出できる電子署名は商業登記証明書が必要とされております。(商業登記規則102条)

しかし書面でもこのような決議の場合、実印の押印と印鑑証明書の添付が求められております。そのため登記申請の場合は商業登記証明書を利用することを限定していることは、既存規約と同等のようにも感じます。

やはり電子証明書を利用した当事者型の電子契約ではなく、メールアドレスなどによって締結するクラウド型などでは、なりすましのリスクは払拭できません。サービス事業者が立会って「確かに契約があった」と証明しても、果たしてその立会いをした事業者にどこまでの義務・責任があるのかは不鮮明です。

やはりクラウド型・リモート型では電子証明書を利用した電子署名と同等の本人性担保ができているかは難しいところです。

今後登記手続の電子署名だけが簡易になっていくのか、注目されるところだと思われます。


※2020年7月6日よりWAN-Signによる商業・法人登記のオンライン申請利用が可能になりました。(2020年7月8日追記)

※2021年2月15日より、登記の申請や印鑑証明書の請求を行う際に、商業登記電子証明書だけでなく、マイナンバーカードに格納した公的個人認証サービスの電子証明書なども使用することができるようになっています。詳しくは法務省サイトをご確認ください。

https://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_00070.html


>>電子化と紙での保管、どちらがお得?~メリット・デメリットを比較する~

>>法務省が指定する電子証明書とは?商業・法人登記のオンライン申請について解説します


まとめ

いかがでしたでしょうか?今回の法務省の動きではリアル世界の印鑑と電子世界の電子署名、この利用差を無くす動きとして大変大きな決断をされたものだと感じられます。リモートワーク推進のさなか、法的解釈が世間を賑わし、ますます電子契約が注目されることとなるでしょう。

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