スキャナ保存の要件は?電子化のメリット・デメリットと始め方
目次[非表示]
- 1.スキャナの保存要件の基礎知識
- 1.1.スキャナ保存とは?
- 1.2.スキャナ保存の対象書類
- 1.3.スキャナ保存の要件
- 2.スキャナ保存のメリット・デメリット
- 2.1.スキャナ保存の主なメリット
- 2.2.スキャナ保存の主なデメリット
- 3.スキャナ保存の始め方
- 4.スキャナ保存の注意点
- 5.改正電子帳簿保存法のスキャナ保存についての変更点
- 5.1.事前承認制度の廃止
- 5.2.タイムスタンプ要件の緩和
- 5.3.適正事務処理要件の廃止
- 5.4.検索要件の緩和
- 5.5.罰則の強化
- 6.まとめ
業務のペーパーレス化の一環として、紙の領収書や請求書などのスキャナ保存制度の導入が進んでいます。コスト削減にも繋がるため、積極的に導入を検討している企業は多いのではないのでしょうか。ただ、スキャナ保存の要件は、電子帳簿保存法で詳細に定められているうえ、馴染みのない専門用語もあるため、やや理解し辛い点もあります。
この記事では、スキャナ保存の要件に関する基礎知識からメリット・デメリット、スキャナ保存の始め方などを、できるだけわかりやすくお伝えします。
スキャナの保存要件の基礎知識
スキャナ保存は、「電子帳簿保存法」が規定している国税関係帳簿・書類の電子データ保存制度の区分の1つです。
まずは、スキャナ保存の基礎知識から解説していきましょう。
スキャナ保存とは?
スキャナ保存とは、取引先から受領した紙の契約書、自社で作成し郵送した請求書の控えなど、これまでファイリングして紙で保管していた書類を、スキャナやスマホなどでデータ化し、電子保存することです。
スキャナ保存は、義務ではありません。しかし、電子帳簿保存法のルールを守らないと、重加算税10%加重の罰則が科されるため注意が必要です。
スキャナ保存の対象書類
スキャナ保存の対象となる書類は、資金や物の流れに直結・連動するかどうかで「重要書類」「一般書類」の2つに区分されています。
【重要書類】資金や物の流れに直結・連動する書類
重要度 |
具体例 |
特性 |
高 |
(それぞれの写し含む)
|
取引の開始時点と終了時点を明らかにする書類 |
中 |
(定型的約款なし)
など
(それぞれの写し含む)
|
所得金額の計算と直結・連動する書類 |
【一般書類】資金や物の流れに直結・連動しない書類
重要度 |
具体例 |
特性 |
低 |
(定型的約款あり)
(それぞれの写し含む)
|
資金や物の流れに直結・連動しない書類 |
ここからは、スキャナ保存の要件を具体的に確認していきましょう。
スキャナ保存の要件
対象書類の保存にあたって、会社には、「真実性」と「可視性」の確保が求められています。真実性とは「書類の改ざんや隠蔽などが行われていないこと」で、可視性とは「いつでも見やすい表示形式で内容を確かめられること」を指します。
・真実性を確保するための要件は次の通りです。
ルール |
内容 |
備考 |
①入力期間
(2方式のうちどちらか)
|
|
【一般書類】の場合は、入力期限の際限なく入力することも可 |
②タイムスタンプ |
入力期間内に、スキャナデータが変更・改ざんされていないことが確認できるなど一定の条件をもとに総務大臣が認定するタイムスタンプを付与する。
※①の入力期間内にスキャナ保存したことが確認できる場合は、タイムスタンプは不要。
|
|
③ヴァージョン管理 |
スキャナデータについて訂正・削除の事実やその内容を確認することができる、又は訂正・削除を行うことができないシステムを使用 |
|
④帳簿との相互関連性の確保 |
スキャナデータとそのデータに関連する帳簿の記録事項との間において、相互に関連性を確認できること |
【一般書類】は不要 |
・可視性を確保するための要件は次の通りです。
ルール |
内容 |
備考 |
⑤解像度 |
200dpi相当以上 |
|
⑥カラー画像 |
赤色、緑色及び青色の階調がそれぞれ256階調以上(24ビットカラー)必須 |
【一般書類】はグレースケールでの読み取りも可 |
➆見読可能装置等の備え付け |
14インチ(映像面の最大径が35cm)以上のカラーディスプレイとカラープリンタ、さらに操作説明書を備え付けること |
グレースケールで読み取った【一般書類】は、カラーでの出力対応しなくてもよい |
⑧速やかに出力すること |
・整然とした形式・書類と同程度に明瞭・拡大又は縮小出力可能・4ポイントの大きさの文字を認識できる状態必須 |
|
⑨システム概要書等の備付け |
スキャナ保存するシステム等の概要書、仕様書、操作説明書、スキャナ保存の手順や担当部署などを明らかにした書類を備え付ける |
|
⑩検索機能 |
a取引年⽉日その他の日付、取引金額及び取引先での検索 |
|
b日付又は金額に係る記録項目について範囲を指定しての検索 |
||
c2以上の任意の記録項目を組み合わせての検索 |
||
※税務職員のダウンロードの求めに応じることができるようにしている場合には、b、c要件は不要 |
このように、スキャナ保存の要件は詳細に規定されているため、業務マニュアルの整備や関係部署ごとの説明会実施など、社内での周知が大事なポイントになります。
出典:国税庁「Ⅰ通則【制度の概要等】」
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/07scan/01.htm#a002
出典:国税庁「Ⅱ適用要件【基本的事項】」
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/07scan/02.htm
出典:国税庁「はじめませんか、書類のスキャナ保存」
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/tokusetsu/pdf/0023006-085_03.pdf
スキャナ保存のメリット・デメリット
自社でスキャナ保存制度の導入の判断材料として、スキャナ保存のメリット・デメリットは確認しておかなければなりません。ここからは、メリットとデメリットをそれぞれ順に紹介していきます。
スキャナ保存の主なメリット
まずは、スキャナ保存のメリットを挙げていきます。
書類の保管コストが削減できる
従来の紙での保管では、保管場所の確保も必要ですし、ファイリング作業の人件費、ファイル代もかかります。スキャナ保存の場合は書類の保管コストが削減でき、経費削減に繋がります。
業務を効率化できる
たとえば数年前の取引について調べる必要がある時、紙での保管であれば、倉庫などの保管場所に行って該当のファイルを探し、探し終わったら元通りにファイリングして保管場所に戻すという手間が発生してしまいます。
しかし、スキャナ保存することにより、デスクに座ったまま検索するだけで、すぐに欲しい情報を取り出せるようになります。そのため、大幅な時間短縮となり、業務効率アップを見込めます。
テレワークを推進できる
請求書や領収書のやり取りもすべてパソコン上でできるので、経理担当者が紙の書類の受け渡しや経理処理のためだけに出社する必要がなくなります。また、営業社員が領収書等を提出するためだけに出社する必要もなくなり、全社的にテレワークを推進できます。
スキャナ保存の主なデメリット
次に、スキャナ保存のデメリットを紹介します。
スキャン作業に手間がかかる
ただでさえ書類のスキャン作業は煩雑なうえ、法律上、スキャナ保存については細かなルールが設定されています。そのため、法律違反にならないように運用していくには、かなりの手間がかかり、担当者の事務負担が増大する可能性は否めません。
スキャン用の機器が必要になる
先ほども触れたように、スキャナ保存要件をクリアするディスプレイやプリンタなどを持っていない場合は、新たに購入する必要があります。この場合は、購入用の費用の支出を覚悟しなければなりません。
セキュリティ対策が必要になる
書類をデータ管理するということは、情報漏洩やシステムトラブルの危険性と表裏一体です。万が一、トラブルにより会社の機密情報や顧客の個人情報が外部に流出する事態になってしまうと、会社の社会的信用は失墜し、大きな損失となってしまいます。このような事態を避けるためには、堅牢なセキュリティ対策が必要となります。
スキャナ保存の始め方
スキャナ保存のメリット・デメリットを確認したところで、つぎにスキャナ保存の具体的な始め方を解説します。スキャナ保存を始めるには、次の3つのステップを進めていく必要があります。
Step1:保存要件に対応するスキャナの用意
「スキャナ」とは、書類や写真などの紙面を読み込み、画像としてパソコンなどに取り込むための読み取り機器のことです。スキャナ単体のほか、オフィスでは、スキャン、コピー、プリントの3つの機能を備える複合機を使用していることも多いです。
電子帳簿保存法で規定しているスキャナの要件は、解像度(画像の明瞭さを示す指標)が200dpi相当以上、赤、緑、青の階調(画像における色の濃淡の度合い)がそれぞれ256階調以上となっています(可視性確保の要件⑤⑥参照)。
スマホで画像保存する場合は、約387万画素以上が必要です。なお、一般書類の保存については、グレースケールでの読み取りも許されています。
Step2:データ検索への対応
保存データは、「取引年月日」「取引金額」「取引先」で検索でき、さらに、日付と金額についての範囲指定検索、3つの項目の組み合わせ検索を可能にしておく必要があります。
設定する際は、あらかじめ入力のルールを決め、社内に周知しておくことをおすすめします。同じ会社名でも、ある担当者はアルファベットで、別の担当者はカタカナで入力してしまうと、正しく検索できないという不具合が生じてしまうからです。
なお、税務調査のときなどに、すぐにデータをダウンロードできる状態にあるならば、上記の範囲指定検索、組み合わせ検索ができなくてもルール違反にはなりません。
Step3:履歴がわかるシステムやタイムスタンプの利用
改ざんやコピー防止のため、スキャナ保存データには、「タイムスタンプ」の付与が義務付けられています。ちなみにタイムスタンプとは、ある時刻に電子データが存在し、それ以降改ざんされていないことを証明するもので、タイムスタンプに付された時刻から、データの存在及び原本証明を簡単に行える仕組みです。
なお、訂正や削除などのデータの変更履歴のわかるシステム、または訂正・削除ができないシステムを導入し、データの入力期間内(最長2か月と概ね7営業日以内)にスキャナ保存する場合は、タイムスタンプの付与が免除されます。
出典:国税庁「はじめませんか、書類のスキャナ保存」
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/tokusetsu/pdf/0023006-085_03.pdf
出典:総務省「タイムスタンプについて」
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/top/ninshou-law/timestamp.html
出典:国税庁「電子帳簿保存法が改正されました」
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/pdf/0021005-038.pdf
スキャナ保存の注意点
スキャナ保存開始の準備が済んだら、いよいよスキャナ保存のスタートです。ここからは、実際の運用面での注意点を解説します。まずは、タイムスタンプについての注意点です。
スキャン後にタイムスタンプの付与が必要な場合がある
データ入力期間内(真実性確保のための要件①参照)にスキャナ保存をしても、変更履歴の残るクラウドツール等を利用していない場合は、タイムスタンプの付与が必要です。
スキャン画像を修正する際、削除・修正の履歴の保存が必要
スキャンする際に操作を誤って、画像が不鮮明だったり、書類の端が切れていたりすると、保存データとして不備になります。この場合、画像の修正を行いますが、真実性確保のための要件「③ヴァージョン管理」にあるように、削除・修正履歴の保存が必要です。
書類の原本の保存が必要になる場合がある
まず、データの入力期間内にスキャナ保存できなかった書類は、原本で保存しなければなりません。
また、「重要な契約書」や「収入印紙を貼った契約書等」は、データ化した後も紙の原本を保管しておいたほうが良いでしょう。契約書については、スキャンデータは民事訴訟法上「準文書」つまりコピー扱いになるので、万が一契約内容等で紛争になった時、原本がないと証拠という点で不利になるからです。収入印紙についても、スキャナ保存した収入印紙データはコピー扱いになるので、紙の原本がないと納税したことになりません。十分注意しましょう。
改正電子帳簿保存法のスキャナ保存についての変更点
電子帳簿保存法は1998年7月に施行されて以来、数度の改正を経て今に至っています。ここでは、2021年の改正(2022年1月施行)での変更点を解説していきます。
主に、次の5点の変更がありました。
事前承認制度の廃止
これまでスキャナ保存をするには、保存を開始する日の3か月前の日までに、税務署に承認申請書を提出し、税務署長による事前承認が必要でした。2021年の改正により、承認が不要になり、用意が整い次第、スキャナ保存を始めることができるようになりました。
タイムスタンプ要件の緩和
タイムスタンプの付与期間が、「概ね3営業日以内」からスキャナ保存の入力期間と同様、「最長約2か月と概ね7営業日以内)に延長されました。
さらに、①データの変更履歴のわかる、または訂正・削除のできないクラウドツール等を利用し、②入力期間内にスキャナ保存した場合は、タイムスタンプ付与が免除されるようになりました。その他、受領者等がスキャナで読み取る際の国税関係書類への自署も不要になっています。
適正事務処理要件の廃止
従来は、スキャナデータの真実性を確保するため、次のa~cの適正事務処理要件について規程を定めたうえで、対応が必要でした。
適正事務処理要件
- スキャナ保存した者とは別の者による原本照合(相互けんせい)
- 適正にスキャナ保存されているかを1年に1回以上、チェックする(定期検査)
- 不備があった場合の報告と原因究明・改善策の検討(再発防止策)
改正後はこれらの対応が不要となったため、さらなる業務効率化が期待できます。
検索要件の緩和
改正前は、検索要件として、取引年月日、取引金額、勘定科目などの他に、書類の種類に応じた主要な記録項目も必要でしたが、現在は取引年月日、取引金額、取引先の3種類に緩和されています。検索機能の設定がしやすくなり、制度導入のハードルをさらに下げる効果をもたらしています。
また、いつでもダウンロードできるように整備している場合は、3項目の範囲指定検索、組み合わせ検索の設定が不要になりました。
罰則の強化
要件の緩和、廃止の一方、罰則については強化されています。具体的には、スキャナ保存した書類につき、隠蔽や改ざんが発覚した場合、申告漏れ等に課される重加算税が10%加重されます。
出典:国税庁「はじめませんか、書類のスキャナ保存!」
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/pdf/0022011-025.pdf
出典:国税庁「電子帳簿保存法が改正されました」
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/pdf/0021005-038.pdf
まとめ
スキャナ保存とは、従来紙で保管していた領収書・請求書などを電子データで保存する制度です。スキャナ保存の要件は法律で定められており、違反すると罰則も科されるため注意が必要です。また、コスト削減、業務効率化、テレワークの推進などのメリットがある半面、作業に手間がかかるというデメリットもあり、セキュリティ対策も必須といえます。しかし、将来的には、会社全体の経費削減に繋がり、事務負担の軽減効果で社員のワークライフバランスの向上も期待できるという点を鑑みると、導入検討の価値はあるのではないでしょうか。
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