電子契約と印紙の関係
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電子契約を導入するメリットの一つとして「印紙税の削減」があります。これまで契約書ごとに必要だった印紙は、「電子データによる契約書作成で不要」になるということです。しかし、電子契約を検討する企業の中には明確な法的な根拠について不安を持つ方も多いと思います。
そこで今回は、電子契約と印紙の関係について、電子契約の導入で本当に印紙税の削減になるのか、いくつかの根拠とともに紹介していきます。
>>電子契約における契約書の文言とは?変更箇所や注意点を紹介
そもそも印紙税とは
世界の歴史から見て印紙税が登場したのは1624年と古く、オランダの税務職員ヨハネス・ファン・デン・ブルックが考案しました。その目的は、1568年から1648年にかけて行われた「八十年戦争」の最中、独立国家となったオランダが戦費調達のために施行したといいます。
以降、デンマークやフランス、イギリスなどで印紙税が導入され、日本で印紙税が登場したのは1873年(明治6年)のことになります。
印紙とは、契約書や領収証に貼られる「規定の税を納めましたよ」という証明で、ビジネスパーソンであれば、誰もが一度は目にするものです。
では、契約書に印紙を貼る目的とは何でしょうか。2005年(平成7年)、第162国会櫻井参議院議員の質問に対して、当時の内閣総理大臣である小泉純一郎氏は、次のように答弁を行っています。
「印紙税は、経済取引に伴い作成される文書の背後には経済的利益があると推定されること及び文書を作成することによって取引事実が明確化し法律関係が安定化することに着目して広範な文書に軽度の負担を求めるもの――」
引用:平成十七年三月十五日. 内閣総理大臣 小泉純 一 郎. 参議院議員櫻井充君提出印紙税に関する質問に対し、 別紙答弁書を送付する。
http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/syuisyo/162/touh/t162009.htm
つまり印紙税とは、文書として作成された契約書には法的効力が発生し、その効力を保証している国が軽度な税金を徴収することを目的とした法令です。そのため、経済的利益が発生する(と推察される)契約書には、印紙税を支払う必要があります。
なぜ、電子契約で印紙税は削減できるのか
印紙税を支払うべき契約書や書面、領収書については、国税庁ホームページで確認することができます。
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/inshi/7140.htm
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/inshi/7141.htm
≪企業が印紙税を納付すべき一般的な契約書の種類≫
文書番号 |
文書の種類 |
具体的な内容 |
課税される金額 |
|
---|---|---|---|---|
第2号 |
請負に関する契約書 |
工事請負契約書、物品加工注文書、広告契約書、請負金額変更契約書など |
契約金の記載がない |
200円 |
1万円以上 100万円以下 |
200円 |
|||
100万円を超え 200万円以下 |
400円 |
|||
200万円を超え 300万円以下 |
1,000円 |
|||
300万円を超え 500万円以下 |
2,000円 |
|||
500万円を超え 1,000万円以下 |
1万円 |
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1,000万円を超え 5,000万円以下 |
2万円 |
|||
5,000万円を超え 1億円以下 |
6万円 |
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1億円を超え 5億円以下 |
10万円 |
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5億円を超え 10億円以下 |
20万円 |
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10億円を超え 50億円以下 |
40万円 |
|||
50億円を超え |
60万円 |
|||
第7号 |
継続的取引の基本となる契約書 |
売買取引基本契約書、特約店契約書、業務委託契約書など |
金額の定めによらず |
4,000円 |
第17号 |
売上代金に係る金銭又は有価証券の受取書 |
商品販売代金の受取書、保険金の受取書、請負代金の受取書など |
5万円以上 100万円以下 |
200円 |
100万円を超え 200万円以下 |
400円 |
|||
200万円を超え 300万円以下 |
600円 |
|||
300万円を超え 500万円以下 |
1,000円 |
|||
500万円を超え 1,000万円以下 |
2,000円 |
このように、印紙税法第2条に、印紙税を納付すべき契約書が一覧で記されています。しかし、その中に「電子データによって作成した契約書」という項目は記されていません。
では、なぜ電子契約で、印紙の貼付が不要になるのでしょう?先ほど紹介した小泉純一郎氏の答弁では、次のように述べられています。
「事務処理の機械化や電子商取引の進展等により、これまで専ら文書により 作成されてきたものが電磁的記録により作成されるいわゆるペーパーレス化が 進展しつつあるが、文書課税である印紙税においては、電磁的記録により作成されたものについて課税されないこととなるのは御指摘のとおりである。」
国税局のホームページの「文書回答事例」においても、電子データで作成した契約書の電子メール送付に対し、次のように述べられています。
「上記規定(印紙税法)に鑑みれば、本注文請書は、申込みに対する応諾文書であり、契約の成立を証するために作成されるものである。しかしながら、注文請書の調製行為を行ったとしても、注文請書の現物の交付がなされない以上、たとえ注文請書を電磁的記録に変換した媒体を電子メールで送信したとしても、ファクシミリ通信により送信したものと同様に、課税文書を作成したことにはならないから、印紙税の課税原因は発生しないものと考える。」
引用:請負契約に係る注文請書を電磁的記録に変換して電子メールで送信した場合の印紙税の課税関係について
https://www.nta.go.jp/about/organization/fukuoka/bunshokaito/inshi_sonota/081024/02.htm#a01
つまり、注文請負書などの契約書の作成は交付も含めたものであるため、電子メールによって送信された契約書は、書面として作成されたものではないと判断されるのです。書面として作成された契約書でない以上、印紙税は不要というわけです。
すべての印紙税が削減できるわけではない
なぜ電子契約によって印紙税が削減できるかの根拠は、ご理解いただけたかと思います。しかし、電子契約によってすべての印紙税を削減できるわけではなく、印紙税が必要になる場合もあります。
電子契約システムを導入しても、取引先が電子契約に応じない場合には、従来通りに契約書を書面で作成し締結することもあるためです。
ただし、取引先との契約を電子契約に切り替えることで、双方の印紙税が削減されメリットが共有できるため、取引先にも積極的に電子契約のメリットを訴求することが可能です。
また、電子証明書(実印レベル)による契約ではなく、電子サイン(認印レベル)によるメール認証での契約もできる電子契約サービスもあり、その場合取引先の負担が少なくなります。書類の種類によっては電子サインによる電子契約サービスの検討も可能です。
まとめ
このように、電子契約を導入した場合の印紙税の削減度合いは取引状況によって異なります。単に電子契約を導入するだけですべての印紙税が削減できるわけではないため、電子契約取引の適用範囲を予測することが必要となります。
また、電子契約による印紙税削減のメリットは、取引先にも及びます。電子契約取引のメリットを正しく訴求することや、電子契約に参加しやすくする制度や体制を整えることも大切です。
電子契約を導入すると得られる他のメリットもこちらでご参考にしてください。