取締役会とは?役割とメリット、開催の流れ、ガバナンス強化にも効果的な運営方法を解説
目次[非表示]
- 1.取締役会の定義と役割
- 1.1.取締役会とは?
- 1.2.取締役会と株主総会の違い
- 1.3.取締役会の役割
- 1.4.取締役会の法的義務と責任
- 1.5.取締役会の構成メンバーの役割
- 1.6.取締役会の設置が義務付けられている会社
- 2.取締役会を設置するメリットやデメリット
- 2.1.取締役会を設置するメリット
- 2.2.取締役会を設置するデメリット
- 3.取締役会の設置と運営方法
- 4.取締役会の開催頻度と開催場所
- 4.1.取締役会の開催頻度(年間の目安)
- 4.2.取締役会の開催場所
- 4.3.取締役会は書面決議でも開催可能
- 5.取締役会を開催する流れ
- 5.1.Step1. 取締役会の招集通知
- 5.2.Step2. 議題の作成と資料の準備
- 5.3.Step3. 取締役会の開催
- 5.4.Step4. 議事録の作成と保管
- 6.取締役会のベストプラクティス
- 7.取締役会とCEOの関係
- 7.1.CEOの評価と監督
- 7.2.取締役会とCEOの信頼関係の構築
- 7.3.取締役会のCEO支援とアドバイス
- 8.取締役会と株主の関係
- 9.取締役会におけるリスク管理
- 9.1.リスク管理の必要性と役割
- 9.2.リスクアセスメントの方法
- 9.3.危機発生時の取締役会の対応策
- 10.取締役会の評価と改善方法
- 10.1.取締役会の自己評価の重要性
- 10.2.評価結果の活用方法
- 10.3.取締役会の改善に向けた具体的なステップ
- 11.国際的な取締役会の実例
- 11.1.アメリカの取締役会の特徴
- 11.2.ヨーロッパ(EU)の取締役会の運営方法
- 11.3.アジアの取締役会の実践例
- 12.まとめ
取締役会は、会社経営の中枢として今後の方向性を決定づける、極めて重要な機関です。会社が迅速かつ的確な意思決定を行い、持続的に成長していくためには、自社の取締役会が抱える課題を正確に把握し、必要に応じて運営方法を見直し、改善に取り組むことが不可欠です。
近年、コーポレートガバナンス・コードの適用など、企業統治やコンプライアンス体制の重要性がますます高まっており、取締役会の運営実態そのものが、投資家や社会から厳しく注視されています。「うちの取締役会は形骸化していないだろうか」「法律に則った適切な運営ができているか」といったお悩みをお持ちの経営者・法務担当者の方も多いのではないでしょうか。
本記事では、取締役会の基本的な役割や設置のメリット・デメリットから、具体的な開催の流れ、そして企業価値向上に繋がる効果的な運営方法まで、網羅的に解説します。また、法律の専門家が取締役会の適切な運営を支援するALSP(代替法務サービス事業者)サービスもご紹介しますので、運営に課題を感じている担当者の方はぜひ参考にしてみてください。この機会に、自社の取締役会の重要性とその在り方について見直してみてはいかがでしょうか。
取締役会の定義と役割
初めに、取締役会の基本的な定義と役割について解説します。取締役会の設置が義務付けられている会社の種類にも触れながら、改めて基本を確認してみましょう。
取締役会とは?
取締役会とは、会社の業務執行に関する意思決定を行い、取締役の職務執行を監督する機関のことです。具体的には、重要な財産の処分や譲り受け、多額の借財、支配人の選任・解任といった会社の経営方針に関わる重要事項を決定します。
会社法に基づいて設置が義務付けられている場合があり、取締役会を健全に運営することは、会社が株主や顧客、取引先、従業員といったステークホルダー(利害関係者)から信頼を得るために不可欠です。取締役会のメンバーには、会社の重要事項の決定に携わる者として、高い倫理観と会社に対する忠実な責任感が求められます。
取締役会と株主総会の違い
「株主総会」とは、会社に出資する株主によって構成される機関です。会社法上、株式会社の最高意思決定機関として位置づけられており、会社の所有者である株主が経営に関する基本方針や重要事項を決定します。
取締役会と株主総会は、どちらも会社の意思決定機関ですが、その権限の範囲、決議できる内容や要件に明確な違いがあります。株主総会が役員の選任・解任や定款変更といった会社の根幹に関わる事項を決議するのに対し、取締役会は経営の具体的な業務執行に関する事項を決定します。
それぞれの主な決議要件は以下の通りです。
取締役会 | 株主総会 |
定足数:議決権を持つ取締役の過半数の出席 必要賛成数:出席した取締役の過半数の賛成 | 【普通決議の場合】 定足数:議決権を行使できる株主の議決権の過半数を有する株主の出席 必要賛成数:出席した株主の議決権の過半数の賛成 【特別決議の場合】 定足数:議決権を行使できる株主の議決権の過半数を有する株主の出席 必要賛成数:出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成 【特殊決議の場合】 ・議決権を行使できる株主の半数以上であって、当該株主の議決権の3分の2以上の賛成 ・総株主の半数以上であって、総株主の議決権の4分の3以上の賛成(内容による) |
※定足数は、いずれも定款で別段の定めをすることが可能です。
取締役会の役割
取締役会は、企業の持続的な成長と企業価値の向上のため、多岐にわたる重要な役割を担います。
経営の基本方針・戦略の策定:会社のビジョンや中期経営計画など、進むべき方向性を決定します。
業務執行に関する重要な意思決定:法律や定款で定められた重要事項(例:新株発行、合併契約の承認など)を決議します。
取締役の職務執行の監督:各取締役が法令や定款、取締役会決議を遵守し、適正に業務を行っているかを監督・監視します。
代表取締役の選定・解職:会社の業務執行を統括する代表取締役を選び、またその職務執行が不適切である場合には解職します。
ガバナンス・コンプライアンス体制の強化:内部統制システムを構築・運用し、不正行為の防止やリスク管理体制を整備することで、企業の健全な経営を担保します。
これらの役割を通じて、取締役会は会社の信頼性や社会的評価に直接的な影響を与えます。
取締役会の法的義務と責任
取締役会を構成する取締役は、会社法に基づき、善良な管理者としての注意をもって職務を行う義務(善管注意義務)と、法令・定款・株主総会決議を遵守し、会社のため忠実に職務を行う義務(忠実義務)を負っています。
取締役会がこれらの法的義務を適切に果たさなければ、会社全体が法的なリスクに晒され、信用を失うおそれがあるため注意が必要です。取締役が共通の目標に向けて連携し、互いに情報を共有し、適切な判断を下せる健全な環境づくりが、企業の持続的な成長と発展に不可欠です。
取締役会の構成メンバーの役割
取締役会は多様なメンバーで構成され、それぞれが異なる役割を担います。
会長:取締役会の議長として、会議の円滑な運営をリードし、議論をまとめる役割を担うことが一般的です。
社長(代表取締役):企業の最高経営責任者として、取締役会の決定に基づき日々の業務執行を統括します。
取締役:各々が持つ専門知識や経験を活かし、経営戦略の策定やリスク管理について意見を述べ、意思決定に参加します。
社外取締役:社内の利害関係から独立した客観的な視点で経営を監督し、経営の透明性を高め、ガバナンス強化に貢献します。
監査役:取締役会の構成員ではありませんが、取締役会への出席義務があり、取締役の職務執行が適法・適正に行われているかを監査する独立した機関です。会計監査および業務監査を通じて、企業の健全性を確保します。
取締役会の設置が義務付けられている会社
会社法によって取締役会の設置が義務付けられているのは、以下の4種類の株式会社です。
公開会社:発行する株式の全部または一部について、譲渡制限を設けていない会社。株主が会社の承認なく自由に株式を譲渡できるため、株主保護の観点から取締役会の設置が必須です。
監査役会設置会社:3名以上の監査役(うち半数以上は社外監査役)で構成される「監査役会」を設置している会社。組織的な監査体制を確保します。
監査等委員会設置会社:3名以上の取締役(うち過半数は社外取締役)で構成される「監査等委員会」を設置している会社。取締役が監査を担うことで、監督機能の強化を図ります。
指名委員会等設置会社:それぞれ過半数が社外取締役で構成される「指名委員会」「監査委員会」「報酬委員会」を設置している会社。経営の監督と執行を明確に分離し、高い透明性を確保する機関設計です。
なお、大会社(資本金5億円以上または負債200億円以上)や上場企業は、原則として「監査役会設置会社」「監査等委員会設置会社」「指名委員会等設置会社」のいずれかの形態でなければなりません。
取締役会を設置するメリットやデメリット
取締役会を設置することには、どのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。それぞれを解説します。以下の点を踏まえ、自社にとって最適な機関設計を検討しましょう。
取締役会を設置するメリット
取締役の監督による社会的な信用の向上
取締役会には、取締役の業務執行を相互に監督する機能があります。このガバナンス体制が機能していることで、経営の透明性や健全性が担保され、取引先や金融機関、投資家といった外部ステークホルダーからの社会的な信用を得やすくなる点が大きなメリットです。
迅速な意思決定が可能になる
取締役会を設置していない会社では、経営に関する重要な意思決定の多くを株主総会で行う必要があります。株主総会は招集手続きが煩雑で、開催頻度も通常は年に1〜2回程度です。一方、取締役会設置会社では、株主総会の権限事項の一部を取締役会で決議できるため、ビジネスチャンスを逃さない迅速な意思決定が可能になります。
取締役会を設置するデメリット
役員人数の増加に伴う役員報酬の負担
取締役会を設置するには、最低でも3名の取締役と1名の監査役が必要です。非公開会社で取締役会を設置しない場合は取締役1名から設立可能であることと比較すると、最低4名分の役員報酬を負担する必要があり、企業にとってはコスト増に繋がります。
取締役会の開催や議事録作成・保管の手間
取締役会は、3ヶ月に1回以上の開催が義務付けられています。開催のためには、招集通知の発送や議題・資料の準備、開催後の議事録作成・保管など、多くの事務的な手間とコストが発生します。運営のためにバックオフィスの業務負担が増加する点に留意が必要です。
取締役会の設置と運営方法
会社経営において、取締役会はどのように設置し、運営するべきでしょうか。取締役会の設置と運営方法の基本について解説します。
取締役会の設置手続き
新たに取締役会を設置する場合、まず株主総会の特別決議によって定款を変更し、「取締役会を設置する」旨の規定を追加します。同時に、取締役3名以上、監査役1名以上を選任し、法務局でその旨の変更登記手続きを行う必要があります。選任後、取締役は会社法に基づいて正式に登録され、第1回の取締役会が開催されます。この会合で、取締役会の具体的な運営方針や年間の議題設定のスケジュールなどが話し合われます。
取締役会の議題設定と議事進行
効果的な取締役会のためには、議題の事前準備が極めて重要です。議題は開催日の相当前に決定し、関連資料と共に取締役・監査役全員に共有することが望ましいです。これにより、各メンバーが議題に対する理解を深め、事前に自身の意見や質問を整理する時間が確保でき、会議の質が高まります。
議長は、各議題の重要度に応じて適切な時間配分を行い、議論が特定の方向に偏らないよう配慮します。議題ごとに担当者を指名し、具体的な報告や提案を求めることで、議論が活発化します。議長は各取締役の意見を尊重し、全員が発言しやすい雰囲気を作りながら、議論が発散しすぎないよう適切に進行管理することが求められます。
効果的な取締役会の運営のためのポイント
取締役会を形骸化させず、実効性のあるものにするためには、継続的な情報共有と意思決定が重要です。取締役の間でオープンなコミュニケーションを促進し、心理的安全性が確保された環境で活発な意見交換が行われるようにしましょう。
また、議事録を詳細に記録し、決定事項だけでなく主要な議論の経緯も残すことで、後日、決定の背景を確認したり、決議事項の進捗や成果を検証したりしやすくなります。必要に応じて、特定のテーマについて外部の専門家やアドバイザーを招聘し、多角的な視点を取り入れることで、より客観的で質の高い議論が可能になります。
弁護士やALSP(代替法務サービス事業者)による運営支援
取締役会の運営には、開会前(招集手続き)、開会中(議事進行)、閉会後(議事録作成)の各フェーズで法的なリスクが潜んでいます。適正な運営・チェック体制を構築し、リスクに対処するために、弁護士やALSP(代替法務サービス事業者)といった外部の専門家によるサポートも非常に有効です。開会中のリアルタイムな法的助言のためにオンラインでスタンバイしてもらったり、閉会後の議事録のリーガルチェックや株主対策について相談したりと、あらゆる場面でサポートを受けることで、取締役会の質を飛躍的に向上させることができるでしょう。
取締役会の開催頻度と開催場所
ここでは、取締役会の開催頻度と開催場所について解説します。近年はオンライン開催も広く認められるようになりましたので、その点もチェックしておきましょう。
取締役会の開催頻度(年間の目安)
会社法第363条2項において、代表取締役および業務執行取締役は、3ヶ月に1回以上、自己の職務の執行状況を取締役会に報告しなければならないと定められています。この規定により、取締役会は最低でも年に4回以上は開催する必要があります。もちろんこれは最低限の回数であり、上限はありません。重要な経営判断が求められる局面など、必要に応じて臨時取締役会を招集し、月に1回以上開催する企業も多くあります。
取締役会の開催場所
取締役会の開催場所について、法律上の特別な決まりはありません。そのため、会議室などに役員が集合して対面で開催するケースもあれば、全員がオンラインで参加するバーチャル形式、あるいは対面とオンラインを組み合わせたハイブリッド形式で開催されるケースもあります。近年はWeb会議システムの普及により、遠隔地にいる役員も参加しやすいオンラインでの開催が増加しています。
取締役会は書面決議でも開催可能
書面決議(みなし決議)とは、取締役会で決議すべき事項について、議決に加わることができる取締役の全員が書面または電磁的記録(メールなど)で同意の意思表示をした場合に、その決議を可決する取締役会決議があったものとみなす制度です(会社法第370条)。
この方法を用いる場合、実際に会議を開催する必要はありません。ただし、書面決議を行うには、あらかじめ定款にその旨を定めておく必要があります。また、監査役設置会社の場合は、その決議事項について監査役が異議を述べないことが追加の要件となります。
取締役会を開催する流れ
一般的に取締役会は以下の流れで開催します。開催準備から開催後までの流れを4つのステップで確認してみましょう。
Step1. 取締役会の招集通知
まず、取締役会の開催日時と場所を決定し、出席者の日程調整を行います。その後、原則として招集権者(通常は各取締役が招集できますが、定款で特定の取締役を定めることも可能)が、各取締役および各監査役に対して招集通知を発送します。
この通知は、原則として取締役会の開催日より1週間前までに行わなければなりません(定款でより短い期間を定めることも可能)。ただし、取締役および監査役の全員の同意がある場合は、この招集手続きを省略することもできます。決議が無効とならないよう、定足数(議決に加わることができる取締役の過半数)を満たしているか事前に確認することが重要です。
Step2. 議題の作成と資料の準備
取締役会の議題(=会議のテーマ)を作成します。報告事項と決議事項を明確に区別し、それぞれの内容を具体的に記載します。草案を作成し、関係者でレビューを行った上で最終的な議題を決定します。併せて、議題の理解を助け、議論を深めるための説明資料やデータなどの関連書類を準備し、事前に配布します。
Step3. 取締役会の開催
事前に定めた日時に取締役会を開催し、議長が議事進行を務めます。一般的には、まず報告事項の報告と質疑応答が行われ、その後、決議事項について審議・採決が行われます。Web会議ツールを用いてリモート会議やハイブリッド会議を開催することも可能です。
Step4. 議事録の作成と保管
取締役会の開催後は、議事録の作成が法的に義務付けられています。議事録には、会社法施行規則で定められた事項(開催日時・場所、議事の経過の要領と結果、決議事項の内容、出席した役員の氏名など)を正確に記載しなければなりません。
作成した議事録には、出席した取締役および監査役が署名または記名押印を行います。この議事録は、電磁的記録で作成し、電子署名を用いることも可能です。作成された議事録は、取締役会の日から10年間、会社の本店に備え置く必要があります。
取締役会のベストプラクティス
取締役会を適切に実施し、その実効性を高めるには、どのようなポイントを意識すればよいのでしょうか。ここでは取締役会のベストプラクティスについて解説します。
透明性の確保と質の高い情報共有
取締役が正確かつ十分な情報をタイムリーに得ることは、適切な経営判断の前提となります。そのためには、質の高い情報共有の体制を整えることが不可欠です。
例えば、会議のアジェンダ(議題)と関連資料を十分に時間をとって事前に配布し、論点を明確にすることが重要です。また、定期的に事業部門から直接報告を受ける機会を設け、現場の状況や戦略の進捗を説明することで、経営の透明性を確保できます。情報システムを活用してリアルタイムで業績データなどを共有することも、迅速な意思決定と企業全体の効率性向上に繋がります。
建設的な議論を促すコミュニケーション
取締役会では、メンバー全員が役職や経歴に関わらず、自由に意見を発言できる心理的安全性の高い環境を整えることが大切です。議長(ファシリテーター)は、特定の人物の発言に偏らないよう、全員に意見を求め、時間管理を行い、論点を整理する役割を担います。
定期的にオフサイトミーティングや意見交換会といったインフォーマルな交流の場を設け、信頼関係を醸成することも有効です。会議後には、各取締役が議論の質や運営方法についてフィードバックを行う文化を醸成し、継続的にコミュニケーションの質の向上を目指しましょう。
内部監査とコンプライアンスの実践
内部監査は、業務の適正性を確認し、不正や非効率といった経営リスクを早期に発見するための重要なプロセスです。一方、コンプライアンスは、法令や社会規範を遵守することで企業の信頼を守る根幹的な活動です。
定期的な内部監査を実施し、その結果を取締役会に直接報告させ、改善策を議論することで、監督機能が実質化します。必要に応じて外部の専門家を招き、第三者の視点から監査を行うと、より客観的な評価が可能です。さらに、社内のコンプライアンス教育を徹底し、内部通報制度を整備・周知することで、全社的なコンプライアンス意識を高め、自浄作用のある組織を構築できます。
外部の専門家による客観的なチェック体制
自社が主体となって運営する取締役会だからこそ、その運営方法や議論の内容が独善的になっていないか、客観的な視点でチェックする機能が有効です。招集手続きや議事録の作成方法が法的に問題ないか、議論が特定の方向に偏っていないかなどを、弁護士やALSP(代替法務サービス事業者)といった外部の専門家に定期的にレビューしてもらうことで、客観性を担保し、会社経営の透明性を追求できます。
取締役会とCEOの関係
CEO(最高経営責任者)と取締役会は、時に緊張感を持ちつつも、互いに協力しながら企業価値の向上という共通目標の達成を目指すことが重要です。ここでは、取締役会とCEOの関係について解説します。
CEOの評価と監督
取締役会の最も重要な役割の一つが、CEO(日本の会社法では代表取締役に相当することが多い)のパフォーマンスを評価し、監督することです。CEOの業績評価は、取締役会が事前に定めたKPI(重要業績評価指標)や経営目標に基づいて客観的に実施されます。取締役会が定期的に評価を行うことで、CEOのパフォーマンスを継続的にチェックし、株主に対する説明責任を果たします。評価結果を踏まえ、必要に応じて改善指示や助言を行い、企業の健全な運営を支えることが可能です。
取締役会とCEOの信頼関係の構築
取締役会とCEOの間には、健全な緊張関係とともに、強い信頼関係が求められます。そのためには、透明性が高くオープンなコミュニケーションが不可欠です。CEOは取締役会に対して経営状況を正直に報告し、取締役会はCEOのリーダーシップを尊重しつつ、建設的な意見を述べることが重要です。この信頼関係があるからこそ、困難な状況にも迅速に対応でき、企業全体のパフォーマンス向上につながるのです。
取締役会のCEO支援とアドバイス
取締役会は、CEOを監督するだけでなく、その良き相談相手として支援し、アドバイスを行う役割も担います。取締役会のメンバーが持つ多様な経験、専門的な知識やネットワークを活用し、CEOが直面する課題に対して具体的な助言を提供することで、CEOはより効果的な意思決定ができるようになります。こうした建設的な関与を通じてCEOを育成し、次世代の経営者候補を育てることも、取締役会の重要な責務です。
取締役会と株主の関係
会社の所有者である株主と良好な関係を築き、その負託に応えることは、会社経営の根幹です。ここでは、取締役会と株主の関係について解説します。
株主総会と取締役会の連携
株主総会では、取締役の選任・解任や役員報酬の決定など、取締役会に対する重要なガバナンスが働きます。株主は株主総会で意見を述べ、取締役会に対する期待や要望を伝えます。取締役会は、株主総会での対話や決議結果を真摯に受け止め、それを経営方針に反映させる責任があります。この両者の連携と健全な緊張関係によって、より効果的な経営が実現し、企業の価値向上が期待できるでしょう。
株主からのフィードバックの活用(エンゲージメント)
株主からのフィードバックは、取締役会にとって経営を客観的に見直すための有益な情報源です。特に機関投資家などとの対話(エンゲージメント)を通じて、会社の外部の視点から経営の改善点や新たな事業機会を発見できます。取締役会は、IR活動などを通じて定期的に株主からの意見を収集し、それを経営戦略へ反映させることが大切です。建設的な対話を通じて株主との信頼関係が築かれ、会社全体のパフォーマンス向上に繋がります。
株主価値向上に向けた取締役会の取り組み
株主価値を長期的に向上させるために、取締役会は目先の利益にとらわれず、持続的な成長を見据えた経営を行うことが重要です。そのために、効率的な資本政策や、新製品開発・M&Aといった成長投資など、持続可能な成長戦略を策定し、その実行を監督しなければなりません。さらには、透明性の高い情報開示が不可欠です。株主に対して会社の財務状況や経営戦略、リスク情報を正確に伝えることで、株主の適切な投資判断を助け、資本市場からの信頼を獲得します。
取締役会におけるリスク管理
取締役会は、企業を取り巻く様々なリスクを把握・評価し、適切な管理体制を構築する責任を負っています。ここでは、取締役会におけるリスク管理について解説します。
リスク管理の必要性と役割
リスク管理は、企業が直面する不確実な状況(リスク)を予測・特定し、その影響を最小限に抑えるために不可欠な経営活動です。取締役会は、全社的なリスク管理(ERM)の方針を定め、その運用状況を監督する最終責任を負います。また、適切なリスク管理は、経営の透明性を高め、ステークホルダーからの信頼を向上させる役割も果たします。リスクを軽視することは、企業の存続に大きな影響をおよぼす可能性があるため、取締役会は積極的にリスク管理を推進しなければなりません。
リスクアセスメントの方法
リスクアセスメント(リスクの評価)を実施するには、まずリスクの特定を行います。事業環境の変化や内部プロセスを分析し、企業が直面する可能性のあるリスク(例:財務リスク、法務・コンプライアンスリスク、オペレーショナルリスク、災害リスク、レピュテーションリスクなど)を網羅的に洗い出します。
続いて、特定したリスクごとに影響度と発生頻度を分析し、対応の優先順位を決定します。そのうえで、リスクの回避、低減、移転(保険など)、受容といった対策を立案し、実行します。リスクアセスメントは一度行えば終わりではなく、事業環境の変化に応じて継続的に見直すことが重要です。
危機発生時の取締役会の対応策
万が一、企業存続を揺るがすような危機が発生した場合、取締役会はリーダーシップを発揮し、迅速かつ的確な対応を主導する必要があります。初期段階での迅速な判断と行動が、被害の拡大を防ぐ鍵となります。
そのためには、平時から危機管理マニュアルを整備し、緊急時の情報共有ルートや意思決定プロセスを確立しておくことが重要です。取締役会は、全社的な視点で情報を集約し、法務・広報などの専門家(社内外を問わず)の助言を得ながら、的確な判断を下す責任があります。危機収束後には、対応の評価と改善策の策定を行い、同様の危機の再発を防止するフォローアップにも取り組みましょう。
取締役会の評価と改善方法
取締役会自身がその活動を定期的に評価し、改善に取り組むことで、ガバナンスの実効性を高め、会社の持続的な成長に繋がります。ここでは、取締役会の評価と改善方法をお伝えします。
取締役会の自己評価の重要性
取締役会の自己評価(実効性評価)は、自らの活動と成果を客観的に見直すための重要な手段です。東京証券取引所のコーポレートガバナンス・コードにおいても、上場企業に対して取締役会の実効性評価を行い、その結果の概要を開示することが求められています。
自己評価を定期的に実施することで、取締役会の強みや課題が明確になり、メンバー間での意識向上や役割の再確認が進みます。これにより、より効果的な意思決定が可能となり、企業全体のパフォーマンス向上につながるでしょう。
評価結果の活用方法
取締役会の評価結果は、単に評価して終わりではなく、具体的な改善アクションに繋げるための重要な資料として活用されます。評価結果を分析することで、例えば「議論の時間が不足している」「特定の分野に関する専門知識が足りない」といった課題が明確になります。
この結果をもとに、取締役会のメンバー構成を見直したり、議題の選定プロセスを改善したり、役員向けの新たなトレーニングプログラムを導入したりすることで、取締役会の機能を最大化できます。また、評価結果の概要を社外に開示することは、企業の透明性とガバナンスに対する真摯な姿勢を示すことになり、ステークホルダーからの信頼向上に繋がります。
取締役会の改善に向けた具体的なステップ
取締役会を継続的に改善するには、以下のステップが有効です。
評価の実施:まず、アンケートやインタビュー形式で定期的な自己評価を実施し、取締役会の現状と課題を明確にします。
アクションプランの策定:評価結果に基づいて、具体的な改善目標と行動計画(アクションプラン)を策定します。
研修・トレーニングの強化:明確になった課題を克服するため、役員に必要なスキルや知識を向上させる研修を実施します。
進捗のモニタリング:策定したアクションプランの進捗を定期的に取締役会で報告・確認し、必要に応じて計画を調整します。
このPDCAサイクルを回し続けることが、実効性のある取締役会を維持する鍵となります。
国際的な取締役会の実例
取締役会の運営方法は、その国の法制度や文化、経済環境によって異なります。最後に、国際的な取締役会の実例をいくつかご紹介します。
アメリカの取締役会の特徴
アメリカの取締役会は、経営の監督機能を重視し、取締役会の独立性が非常に高いことが特徴です。ニューヨーク証券取引所の上場規則では、取締役の過半数を独立社外取締役とすることが義務付けられています。
また、CEO(最高経営責任者)と取締役会議長を分離するケースが多く、これによりCEOへの監督を強化し、組織の健全な運営を担保しています。さらに、ダイバーシティ(多様性)を重んじ、性別・人種・専門分野の異なるメンバーの参加を推奨することで、多角的な視点からの意思決定を促しています。
ヨーロッパ(EU)の取締役会の運営方法
ヨーロッパの取締役会の運営方法は国によって多様です。例えば、ドイツでは経営を監督する「監査役会」と業務を執行する「取締役会」が明確に分かれた二層制が採用されており、監査役会には従業員代表が参加することが法律で定められています。
一方、フランスやイギリスでは日本と同様の一層制が主流ですが、EU全体としてコンプライアンスや企業の社会的責任(CSR)、サステナビリティ(持続可能性)への意識が非常に高いのが特徴です。環境保護や人権への配慮、社会貢献といった非財務情報が、企業の評価に大きく影響します。
アジアの取締役会の実践例
アジアの取締役会は、欧米とは異なる特徴を持っています。多くの国で創業家一族が経営に大きな影響力を持つ、いわゆる家族経営の企業が多いことが一つの特徴です。これにより迅速な意思決定が可能になる一方で、ガバナンスの透明性が課題となるケースもあります。
日本の取締役会は、伝統的に内部昇進した取締役が中心でしたが、近年はコーポレートガバナンス・コードの影響で社外取締役の選任が急速に進んでいます。アジア各国でも、グローバルな投資家からの要請に応える形で、ガバナンス改革や透明性向上の取り組みが活発化しています。
まとめ
ここまで、取締役会の基本的な役割から設置のメリット、具体的な開催の流れ、そしてガバナンスを強化する効果的な運営方法まで、幅広く解説しました。
取締役会は、単に法律で定められた形式的な会議ではありません。企業の持続的成長と企業価値向上を実現するための「戦略的な意思決定機関」です。昨今のコーポレートガバナンスやコンプライアンスに対する社会的な要請の高まりからも、法律に則った適切な体制を整備し、実効性のある取締役会を運営することが、すべての企業にとって重要な経営課題となっています。
「社内に法務部や専任者がおらず、運営方法に不安がある」「長年の慣習で運営してきたが、一度専門家の視点でチェックしてほしい」といったお悩みはありませんか。そのような場合は、弁護士など外部の専門家から支援を受けるのも有効な選択肢です。
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